PSA検査を用いた前立腺癌検診

PSA検査を用いた前立腺がん検診に関する見解

2011年2月10日

前立腺特異抗原(prostate specific antigen; PSA)検査を用いた前立腺がん検診は、最新の死亡率低下効果に関する無作為化比較対照試験(RCT)によって、効率よく、確実に死亡率低下効果を得られることが証明されました。

すでに、2009年3月にN Engl J Med誌に発表された欧州の大規模RCTである、European Randomized Study of Screening for Prostate Cancer(ERSPC)の中間解析によって、経過観察期間が9年の間に、検診介入群は検診非介入群(コントロール群)と比較して20%のがん死低下効果が得られることが証明されていました。しかし、経過観察期間の短さより、ERSPCでは、本来がん検診の有効性において評価されるべき、検診受診による生涯のがん死亡率低下効果を過小評価していました。

その問題点を解決したのが、2010年8月のLancet Oncologyに発表された、スウェーデン・イエテボリでおこなわれたRCTです。この研究では、14年間の経過観察結果が発表され、無作為に振り分けられた検診介入群では、コントロール群と比較して、44%の死亡率低下効果が得られることが証明されました。

がん検診や様々な医療介入行為の効率の指標の一つとして用いられる、1人のイベント発生を減らすために必要なスクリーニング検査数(the number of men needed to be screened;NNS)と、1人のイベント発生を減らすために必要な治療数(the number of men needed to be treated;NNT)の試算では、最新の研究結果では、イベントを前立腺がん死とした場合、1人のがん死を減らすために必要なPSA検診受診者数(NNS)は293人、1人のがん死を減らすために必要な治療数(NNT)は12人であることが示されました。このPSA検診の検診効率は、他のがん検診などと比較した場合においても極めて効率が良いといえます。

また、イエテボリ研究以降の研究成果としては、英国の医学誌(BMJ)の2010年9月号にイエテボリ研究以前の5つのRCTをまとめて分析したメタアナリシスの結果が発表されましたが、5つの内の3つの研究は、研究自体に問題がありメタ解析に不適当な研究といわれており、その論文では「PSA検診の死亡率低下効果は有意でなかった」と結論していますが、現在のPSA検診システムの有効性を評価する研究としては、参考になりません。

また、コントロール群のPSA検診曝露の高さから、その分析手法の科学的妥当性自体が疑問視されていた米国のProstate, Lung, Colorectal, and Ovarian(PLCO)研究でしたが、登録症例の併存疾患の重症度によって2群に分け、また研究の大きな問題点の一つとされていた研究登録前のPSA検診受診歴などを補正した再解析が2010年11月のJournal of Clinical Oncologyオンライン版に発表されました。10年間の経過観察の結果、健康・軽度併存疾患群では検診介入により44%の死亡率低下効果を認めました。

最新かつ信頼性の高い研究の全てにおいて、大きな死亡率低下効果が証明されたPSA検診は、その検診効率も良く、他の既存のがん検診との客観的な比較においても、より強く推奨されるがん検診といえます。

PSA検診の普及が遅れ、前立腺がん死亡数の増加傾向に歯止めがかからない我が国の現状を鑑み、よりよいPSA検診を国民に提供できるよう、正しい普及のために、一層力を入れて参ります。是非とも、実地医家の先生方におかれましては、最新の研究結果や前立腺がん死亡率が増加しております現状をご理解いただき、PSA検診の普及にご協力を賜りますようお願い申し上げます。

社団法人 日本泌尿器科学会