理事長メッセージ

はじめに
このたび、日本泌尿器科学会理事長を拝命いたしました。歴史ある本学会の理事長という重責を担うこととなり、身の引き締まる思いでございます。微力ではございますが、学会のさらなる発展と泌尿器科医療の進歩に尽力してまいる所存です。会員の皆様におかれましては、今後とも変わらぬご支援・ご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
泌尿器科学会を取り巻く環境
日本泌尿器科学会は、1912年の設立以来、110年以上にわたり日本の泌尿器科学の発展を支えてまいりました。その活動は、基礎・臨床研究の推進、新たな医療技術や手術手技の普及、診療ガイドラインや取扱い規約の策定、専門医制度の整備、さらには国際的な学術交流の推進など、多岐にわたっています。会員数も年々増加し、本年は10,000名を超えました。
泌尿器科を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。高齢化がますます進行し、高齢者を診療する機会が多い泌尿器科の患者数は年々増えています。またゲノム医療、ロボット手術、新薬の登場など医療技術の進歩により、各疾患の治療方法も大きく変わりつつあります。加えてデジタル技術やAI技術が進歩し、社会への浸透も進み、これらの医療への応用といった技術変革の波が押し寄せております。
一方で、医学とは直接関わるものではないですが、働き方改革、専門医制度、地域格差(偏在)、材料・医薬品費の高騰、病院経営の悪化など解決すべき問題も山積しています。
本学会には、学術の発展に寄与すると同時に、国民の健康の増進という重要な責務があります。私は理事長として、これらの課題に真摯に向き合い、取り組んでまいる所存です。
次なる100年に向けて
歴史ある日本泌尿器科学会が、これからも日本の泌尿器科学の発展に貢献し続けるためには、将来を見据えた舵取りをしていかなくてはなりません。以下に、私が特に力を注ぎたい課題を挙げさせていただきます。
1. 大学病院、地域中核病院の在り方
材料・医薬品費の高騰により、多くの病院が経営難に直面しています。とりわけ大学病院では、経営に加えて医学教育、医学研究という本来の使命を果たす必要がありますが、近年は経営を重視するあまり、医学研究に時間を割けない臨床教員が増えているのが実情です。長期的な視点で見ると、このことが日本の国際競争力の低下につながる恐れもあります。これは泌尿器科のみならず、医学全体にかかわる問題であり、他学会とも連携しつつ、文部科学省や厚生労働省と協議を重ねていく必要があると考えています。
2. 安全で質の高い医療技術の提供
標準的な医療が安定して提供されることは、国民の基本的な期待であり、教育プログラムの充実を通じて、実臨床に携わる泌尿器科医の能力向上を図ってまいります。
また、高難度な医療技術が安全に提供される体制の整備も重要です。「泌尿器科腹腔鏡手術およびロボット支援手術に関する術中・術後早期重大事例報告システム」は一定の成果を上げておりますが、引き続き学会として積極的に取り組んでいきたいと考えています。
3. 国際交流の再活性化
新型コロナウイルス感染症の影響により停滞していた国際交流も、現地開催の再開によりようやく回復しつつあります。しかし、企業からの支援が得にくくなっている現状もあり、現地参加をためらう先生方も少なくありません。
今後は、意欲と実績を備えた若手医師が国際学会に参加できるよう、支援をさらに強化してまいります。若手泌尿器科医が海外での経験を積めるような仕組みづくりに努めてまいります。
4. 専門医制度の課題
シーリング制度、地域格差(偏在)の是正、サブスペシャルティの整備など、専門医制度には未解決の課題が多くあります。状況が流動的で、一貫性に欠ける点も見受けられます。引き続き、学会として日本専門医機構および厚生労働省と継続的に協議を行い、制度のより良いあり方を模索していく所存です。
5. ダイバーシティの推進
女性代議員・女性理事については、学会主導で特別枠を設けてまいりましたが、これはあくまでも応急措置であり、根本的な解決には至っておりません。泌尿器科を志す女性医師が、男性と同様の労働環境のもとで、自己研鑽や研究に取り組む機会を持てるよう、学会として環境整備に努めてまいります。
そのほか、働き方改革、臨床研究の在り方、広報活動、企業との関係など、多くの課題が山積しております。これらは、2026年に開催予定の「Sustainable Development(名称変更の可能性あり)」にて、学会全体で議論し、方向性を見出していきたいと考えております。
さいごに
泌尿器科を取り巻く環境は、かつてないほどに複雑であると同時に、大きな可能性にも満ちています。この時代に理事長として皆様とともに歩んでいけることは、私にとってこの上ない光栄であり、また大きな挑戦でもあります。
日本泌尿器科学会の未来は、会員の皆様お一人おひとりのご尽力と志にかかっております。今後ともご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げますとともに、ともに力を合わせ、泌尿器科学のさらなる発展を目指してまいりましょう。
何卒よろしくお願い申し上げます。
東京大学大学院医学系研究科泌尿器外科学分野 教授
久米春喜