泌尿器科医は、人生と医療を面白がる天才たちの集まり

山形大学医学部・土谷順彦教授は約40年前、「一目惚れ」をきっかけに泌尿器科医の門を叩きました。土谷教授のキャリアは地方病院への出向から始まり、米国メイヨークリニックへの留学、そして現在はAIを駆使した医局運営へと続いています。

なぜ泌尿器科は外科と内科の両面を持ち、テクノロジーの導入で医療界の最先端を走り続けられるのか?「泌尿器科医はどこへ行っても独特の『楽しさ』がある」と語る土谷教授に、知られざる泌尿器科医の魅力と、求められる「枠にはまらない生き方」についてお話を伺いました。

土谷 順彦(つちや・のりひこ)
1988年秋田大学医学部卒業後、同大泌尿器科入局。水戸協同病院、国立水戸病院(現・水戸医療センター)勤務を経て、1999年より米国メイヨークリニックへ留学し前立腺がんの遺伝子研究に従事。帰国後、秋田大学医学部准教授等を経て、2015年より山形大学医学部腎泌尿器外科学講座教授。AIを活用した医局運営や後進の育成に尽力している。

イメージとのギャップに衝撃。「一目惚れ」から始まった泌尿器科医への道

土谷先生が泌尿器科を選ばれた理由を教えていただけますか?
土谷:きっかけは非常に単純で、学生時代の臨床実習で最初に回ったのが泌尿器科だったからです。それまで私は内科志望で、外科系にはあまり興味がありませんでした。当時の泌尿器科は、失礼ながら「性病科」や「地味」といった印象を持たれがちでした。私自身もそうしたイメージを少なからず持っていたこともあり、あまり期待せずに泌尿器科での臨床実習に臨みましたが、実際に実習に行ってみたらイメージを根底から覆されました。
具体的にどのような点に衝撃を受けたのでしょうか?

土谷:とにかく手術がダイナミックだったんです。1cmくらいの小さな結石を取り出すために、背中からお腹のあたりまで大きく切開するような手術をします。その光景を見たときに、私の中の「泌尿器科は地味」という認識は吹き飛びました。

また、先輩の先生方が非常に楽しそうに働いているのも印象的でした。日中は外来や手術をこなし、夕方からは実験室にこもって研究に没頭するようなエネルギッシュな方ばかり。忙しいはずなのに活気にあふれた明るい医局に触れたことで「こういう外科なら自分もやっていけそうだし、何より楽しそうだ」と一目惚れしてしまったんです。

入局直後のキャリアについても教えてください。

土谷:入局直後の配属は、茨城県にある水戸協同病院でした。大学病院に比べて一般病院は医師の数が少ない分、1年目とは思えないほど多くの症例を経験させてもらえました。あの時期に臨床の基礎体力を徹底的に鍛えられたことは、その後のキャリアにおいて大きな財産になりましたね。

水戸協同病院(1988年)泌尿器科医1年目、
かわいがってもらった手術室の看護師たちと
その後、どのような経緯で山形大学へ?
土谷:水戸での研修を終えた後は秋田大学へ戻り、そこで基礎研究を始めました。その後、もう一度水戸の病院(国立水戸病院)で勤務し、その間に米国への留学も経験しました。帰国後は再び秋田大学で講師、准教授を務め、2015年からご縁があって山形大学医学部の教授として赴任することになりました。一つの場所に留まらず、様々な環境で研鑽を積めたことは良かったと思っています。

仲間意識とフットワークの軽さ。泌尿器科が走る医療の最先端

米国への留学は、ご自身にとってどのような経験でしたか?

土谷:卒後3年目から勤務した国立水戸病院(現・水戸医療センター)での上司の勧めがきっかけでした。「俺も論文を書くから、将来留学したいやつは年に2本は書け」という現場主義の部長でした。その教えを守って論文を書き続けたおかげで、医局の人員が減って大変な時期でしたが、念願の留学を許してもらえました。留学先であるメイヨークリニック(Mayo Clinic)は、トウモロコシ畑の中にポツンとあるような医療機関ですが、世界中から優秀な医者や多くの患者さんが集まる素晴らしい環境です。そこで前立腺がんの遺伝子研究に従事し、幸運にも良いデータが出て論文にまとめることができました。「研究もする、英語も学ぶ、旅行もする」が当時の留学の3大目標でしたが、英語以外は達成できたかなと思っています。

Mayo Clinic(2000年)留学中の研究室のみんなとの昼食会
海外の研究者と交流する中で、何か気づきはありましたか?

土谷:アメリカにいて気づいたのは、泌尿器科医には不思議と世界共通で似たタイプの人が集まる、ということです。基本的には皆さん真面目なんですが、根が明るくて楽しいことが好きな人が多いんです。24時間ガチガチに働くというよりは、オンとオフの切り替えが上手で、人生を楽しもうという姿勢を持っている人ばかりのように思えます。この印象は、かつて留学先で交流した先生も、最近学会でお会いする先生も変わりません。

また、泌尿器科医は外科や内科に比べると人数が少ない分、先生方の顔が見えやすいんです。「あそこの大学の誰々先生」といえば大体通じる風通しの良さと仲間意識の強さが、泌尿器科の大きな武器だと思います。

その結束力が、新しい技術の導入にもつながっているのでしょうか?
土谷:そう思います。例えば腹腔鏡手術や、手術支援ロボット「ダヴィンチ」などが登場した時もそうでした。他の科が「そんな新しいもので大丈夫か」「やはり大きく切ったほうが確実だ」と慎重になっている間に、泌尿器科は「面白そうだからやってみよう」「これは患者さんのためになる」と、どんどん取り入れていきました。組織のフットワークが軽く、新しいことへの抵抗感が少ないのが泌尿器科の特徴です。新しいものに触れていきたいという好奇心が、結果として泌尿器科を医療テクノロジーのフロントランナーにしているのだと思います。

「入り口も広く、出口も広い」ライフスタイルに合わせた多様なキャリアパス

これから泌尿器科を目指す人へ、キャリアパスの魅力について教えてください。
土谷:泌尿器科の良さは、「入り口も広く、出口も広い」ところです。バリバリ手術をする名医、いわゆる「ゴッドハンド」を目指したい人には、ロボット手術のような最先端のフィールドがあります。一方で、手術一辺倒ではなく、薬物療法や内分泌療法でじっくり患者さんを診たい人、透析医療や男性不妊、小児泌尿器、女性泌尿器といった専門性を高めたい人にも活躍の場があります。もちろん、開業もしやすい科であることは間違いありません。内科と外科の両方の側面を兼ね備えているため、自分のライフステージや興味の変化に合わせて、働き方を柔軟に変えていけるのが最大の魅力ですね。
勤務医としてのQOL(生活の質)についてはいかがでしょうか?

土谷:日中は手術や外来で忙しいですが、泌尿器科は他科に比べて緊急手術が少ないのが特徴です。夜間や休日に呼び出される頻度はそこまで高くないので、オンオフのメリハリはつけやすいと思います。私自身、休日は大好きなゴルフを楽しんでいます。

また、コロナを機に趣味としてプログラミングを始めました。最近は、毎週出る膨大な数の新着論文を生成AI「Gemini」に読ませて要約させ、それを医局員に配信するシステムを作りました。論文を全部読まなくても大体の内容が5行くらいで把握できるので、概要を短い時間で学ぶにはとても便利ですね。常に新しいものを取り入れて効率化していくのも、泌尿器科医らしい気質かもしれません。

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最後に、医学生や若手医師へのメッセージをお願いします。

土谷:私は「言われたら断らない」をモットーに生きてきました。上司や先輩からの頼まれ事は、時に面倒に感じるかもしれませんが、「君ならできる」という信頼の証でもあります。自分のキャパシティを少し超えるような課題に挑戦することで、人は成長できます。また、これからの時代は高齢の患者さんが増え、ガイドライン一辺倒の治療では対応しきれない場面も増えるでしょう。そんな時こそ、患者さんの人生観を含めて全体を診る力が試されます。

泌尿器科は、食わず嫌いをするにはもったいないほど奥深く、そして楽しい世界です。これから専門医としての進路を模索している方、泌尿器科医としてキャリアを積み重ねたい方には、もっと泌尿器科医の魅力を知ってほしいですね。きっと、想像以上に面白い未来が待っていますよ。