前例がないなら、自分でつくる。人との出会いに導かれた臨床医のキャリア
医療法人湘尽会 かとう腎・泌尿器科クリニックの加藤忍先生は、複数の病院での臨床経験を経て、2013年に平塚にて開業。現在は平塚に加え、東京・日本橋で前立腺肥大症手術に特化したかとう前立腺クリニック東京を運営し、日帰り手術にも取り組んでいます。
最初から前立腺肥大症を専門にすると決めていたわけでも、開業医を目指していたわけでもなかったという加藤先生。多くの医師との出会いに支えられながら、自らのライフワークを見つけ、「前例がない」と言われた医療を形にするまでの歩みを伺いました。
- 加藤 忍(かとう・しのぶ)
- 1991年、藤田保健衛生大学医学部医学科(現・藤田医科大学)卒業。平塚市民病院、成田記念病院、伊豆赤十字病院、福生病院などを経て、2006年に平塚市民病院泌尿器科部長。2013年、かとう腎・泌尿器科クリニックを開設。現在は東京・日本橋でも前立腺肥大症手術に特化した診療を行う。藤田医科大学医学部客員教授。
人との出会いに支えられ、臨床医としての基礎を築く
- 先生が泌尿器科を選ばれたきっかけを教えてください。
加藤:最初から泌尿器科を明確に志していたわけではありません。学生時代は心臓外科や脳神経外科に興味があり、東京女子医大の心血管センターも見学しました。ただ、実際の手術を見ていると、一番重要なところを執刀できるのは限られた先生です。それなら、もっといろいろな手術に携われる診療科のほうが自分には合っているのではないかと感じました。
そんな時、テニス部の先輩に「泌尿器科に入らないか」と誘われました。同時期に教授から「留学もできる」と聞き、海外への興味もあって泌尿器科医の道を選びました。
実際に入ってみると、泌尿器科は扱う領域が幅広く、内科的な診療から外科的な治療、手術まで自分たちで完結できます。結果として、自分にはとても合っている診療科だったと思います。
- 若手医師時代には、どのような経験をされましたか?
加藤:当時は移植医療が盛んでしたが、免疫抑制療法は現在ほど安定していませんでした。そのため、何かあれば必ず患者さんのところへ行き、自分の目で診て、考えて、治療するように指導されました。研修医ですからできることは限られていましたが、現場へ行く姿勢を徹底的に鍛えられたと思います。
先輩からの「この研修の2年間で君がどのような医師になるかが決まる」という言葉の影響も大きく、多くの患者さんと接する中で「医療には愛と献身が必要なんだ」という気持ちが芽生えていきました。大変な研修でしたが、現在も日帰り手術に向き合えているのは、あの時代の経験があったからだと感じています。
- 泌尿器科医として進んでいこうと思えるようになったのは、どのような経験からでしたか?
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加藤:最初に泌尿器科医として勤務した平塚市民病院で、当時の部長先生が「せっかく泌尿器科医になったのだから、自分が目指すものを見つけなさい」と声をかけてくださいました。当時いろいろと悩みを抱えていた私は、先生にいただいた温かい言葉に救われたんです。この頃になって、初めて泌尿器科医になって良かったと思えるようになりました。
その後も勤務先ごとに素晴らしい先生方との出会いがありました。振り返ると、自分一人で切り拓いたというより、多くの人に支えていただきながら歩いてきたキャリアだったと思います。
より良い手術を追い求め、前立腺肥大症がライフワークになる
- 前立腺肥大症の手術に力を入れるようになったきっかけは何だったのでしょうか?
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加藤:若い頃は、当時の標準的な前立腺肥大症手術だったTURPの術後管理を数多く経験しました。良性疾患なのに出血が止まらず、夜中に膀胱洗浄をしたり、輸血が必要になったりする患者さんもいたんです。「なぜ良性疾患の手術で、ここまで患者さんが大変な思いをしなければならないのだろう」と疑問を感じていました。
そんな時、平塚市民病院の部長に紹介いただき、夏休みを使って鹿児島の病院へ手術を見学に行きました。同じTURPなのに、手術は速く、出血も少なく、合併症もほとんどありません。同じ器具を使っているのに、術者によってここまで違うのかと本当に驚きました。
ただただ「自分もこういう手術ができる医師になりたい」と思ったのを覚えています。まずは先生からいただいた手術のビデオを擦り切れるほど見て、先生と同じやり方を徹底的に真似しました。この時の感動が、前立腺肥大症の手術をライフワークにするきっかけになっています。
イスタンブールでの研修(中央:加藤先生) - 新しい治療についてはどのように学んでいかれたのでしょうか?
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加藤:新しい治療との出会いも、人とのつながりから始まることが多かったですね。HoLEPを学んだきっかけも、先輩から「こういう治療が入ったよ」と声をかけてもらったことです。その後もダイオードレーザー蒸散術などを学ぶため、イスタンブールやインド、ニュージーランド、ハワイ、サンディエゴなどへ足を運びました。
私が海外で学びたいのは、研究ではなく臨床の現場です。現地で学んだ手術や術後の診療を自分の経験に取り入れ、日本の患者さんへより良い治療として返していきたいと考えています。
ただ、すべての機会を自分で探したわけではありません。「一緒に勉強に行こう」と声をかけてくださる先生方がいたからこそ、さまざまな医療を見ることができました。やはり私は人に恵まれてきたのだと思います。
ニュージーランドでの研修:HoLEPの考案者Prof.Gillingと供に - 大学院での経験は、その後のキャリアにどのような影響を与えましたか?
加藤:大学院では慢性前立腺炎を研究しましたが、当時はテーマに興味を持てず、十分に取り組めなかった反省があります。教授の指導の意味も理解できていませんでした。
ところが後になってみると、当時取り組んでいた内容の一部が、他大学で研究成果につながっていることも分かりました。自分の勉強が足りず、教授の意図を理解できていなかったんですね。「興味がないからやらなくていい」のではなく、何事にもしっかり向き合い、自分で考えなくてはいけないと学びました。
大学院を修了して臨床の現場へ戻った時には、「やっぱり自分は臨床をやりたい」という気持ちが強くなりました。研究そのもの以上に、自分がどんな医師になりたいのかを知る経験になったと考えています。
前例がないなら自分で形にする。開業医として追求する理想の医療
- 開業を考えるようになったのは、どのようなきっかけからですか?
加藤:公立病院で新しい医療に取り組もうとしても、「前例がない」という理由で話が止まってしまうことが何度かあったんです。
自分だけが良い手術をできればいいとは思っておらず、他の先生方にも学んでもらえる環境を作りたいと考えていました。それでも実現できない状況が続き、「ここにいては自分が本当にやりたい医療はできない。だったら自分でやるしかない」と考えるようになったんです。
開業時には、前立腺肥大症の日帰り手術を行いたいと金融機関へ相談しても、「先生、そんなことは夢物語ですね」と言われました。しかし、それまで臨床を積み重ねてきた自信がありましたので、諦めようとは思いませんでした。
幸いにも、開業準備をサポートしてくださっていた方から現在のメインバンクを紹介していただき、融資を受けられることになったんです。そこで資金の目処が立ち、開業を実現できました。
- 開業後は、どのように現在の医療を形にしていったのでしょうか?
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加藤:開業当初は、麻酔科医である妻と朝4時に八王子を出て、5時ごろから準備を始め、朝6時から手術をしていました。当時、日帰りで前立腺手術を行うクリニックはほとんどなく、「本当に日帰りでできるのか」と何度も聞かれました。
もちろん、日帰り手術は術者一人だけではできません。麻酔科医や看護師とのチームワークが必要ですし、万が一合併症が起きた場合に患者さんを診てくださる後方支援の病院も欠かせないんです。東京で2院目を開業する時にも、どのように体制を整えるか悩みました。そんな時「何かあったら面倒を見るよ」と言ってくださった先生がいて、その言葉は涙が出るほどうれしかったですね。
現在、平塚では幅広い患者さんを診る一方、東京では前立腺肥大症手術に特化し、一人ひとりに時間をかけて診療することを大切にしています。海外では、少人数の患者さんを丁寧に診察し、手術について十分に説明する医療を見て「こういうクリニックも作ってみたい」と思いました。東京のクリニックでは、一つの夢を実現できたと感じています。
- 最後に、若い泌尿器科医の先生方へ伝えたいことを教えてください。
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加藤:泌尿器科には、内科的な診療から外科手術、内視鏡治療、がん、排尿機能、腎移植、男性医学まで、非常に幅広い分野があります。その中にはきっと、自分が「一生をかけて追いかけたい」と思えるものがあるはずです。私にとっては、それが前立腺肥大症の手術でした。
前立腺肥大症の治療は、患者さんの排尿が改善し、当たり前の生活を取り戻すことが大切だと考えています。排尿は人間の尊厳に関わるものです。患者さんから「楽になった」「手術を受けて良かった」と言っていただけることが、臨床医として何よりもうれしいですね。
ただ、私は最初から進む道が見えていたわけではありません。多くの先生方や患者さんと出会い、国内外でさまざまな医療を見る中で、少しずつ自分の道を見つけてきました。若い先生方にも、ぜひ多くの人と出会い、いろいろな医療に触れてほしいと思います。
私が大切にしているのは、「チャレンジしないで後悔するより、チャレンジして後悔するほうがいい」ということです。泌尿器科には、若い先生方が挑戦できる分野がまだたくさんあります。いつか皆さん自身が「これが私のライフワークです」と言えるものを、泌尿器科の中で見つけていただければと思います。